第1章 花信風 滝澤 /平子
それから、政道さんをベッドへ招き入れた。
震えている。
決して与えられたベッドは大きくないので2人で寄り添い合う。
冷たい体温。
「…俺は…俺は…仕方なかったんだっ、」
「どうしたらよかったんだ…」
冷たい空間。
政道さんの涙が落ちてゆく。
ぽたり、ぽたり。
「政道さん、星が見たい」
「…星なんか…見えるもんか」
「外を少し歩きましょう」
「…」
「逃げないよ、政道さんが手を繋いでて」
「……」
2人で暗くて長い廊下を歩いた。
廃墟にアオギリの樹は住んでるんだなーと思いながら、緩く私の手を繋いで歩く政道さんの後ろ姿を見る。
「政道さん、もっと強く繋いでくれないといなくなってもいいんですか?」
「…っ、お前…といると調子狂う」
見た目は変わったけど、中身は昔よりも弱々しい政道さんだ。
きゅっと手を握ると、政道さんも手を握ってくれた。
外に出ると、辺りは草木が生い茂っている場所だった。
真っ暗だったけど、少し歩いたとこにちょっと小高いところがあってそこへ2人で行った。
「うわー!!ほら、政道さん!星!」
「……」
満点の空が広がってた。
ずっと苦しかったんですね。
政道さんは身体は喰種かもしれない。
けど、心は人間だもん。
私は、あなたの苦しみを少しでも減らしてあげたい。
真っ暗なあなたの心がどうか、光を迎え入れる事が出来ますように。
彼は、また涙を零していた。
「……、俺を許してくれるか?」
「あなたを許すのは政道さん自身だよ」
「……俺は…、俺を許せない」
「……政道さんはそういう人だもんね、私は政道さんのそういうところ大好きだよ」
政道さんは眉を寄せて口を閉ざす。
昔から思った事を素直には言わないこの人。
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この2年、私も、政道さんもお互い違う日々を過ごしてた。
政道さんが何をして、何があって、どうしてこんなに追い込まれて、そして、こんなに強くて、こんなにも悲しみに覆われてしまったのか私には想像もつかない。
でも、変わらないあなたがそこにはいる。
たった1人で暗闇に迷い込んで、どこにも行けなくなってしまう。