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待つ宵 揺らめく水面

第1章 花信風 滝澤 /平子



私は静かに目を開けた。
「政道さん…?」

ドアから入ってきたであろう人に視線を向ける。

そこには真っ黒のマントを纏った白髪、真っ白い肌、隈が出来た目。

でも、間違いなく滝澤政道が立っていた。

彼はただ立っていた。
何も言わない。

私は身体を起こして、政道さんを見る。
恐怖心は無くて、不思議と言葉が零れる。

「…政道さん」

「…怖くないのか?」

ああ、政道さんだ。
政道さんの声だ。

「政道さんだから」
「…俺は!!もう滝澤政道じゃねえ!!
人間も何人も喰った、のことをああ美味そうだなって今も考えてる」

心の底が震えるくらいの悲しい声がする。

「はい」
「それでも、怖くねーのか?」

政道さんがベッドの横に来て、白い手で私の頬をするりと触る。

「平子丈との関係はなに?」
「……私の、片思いです」
「俺のことはもう忘れてたってことか?」

政道さんの目を見る。

眉は下がり、唇が震えていて、眼は赤く光っていた。
するりと、首元を手の甲でなぞられる。

「…忘れることなんて出来ませんでした!」
「ほんとは忘れたかったです、ずっと政道さんだけを見て生きてきた」

ずっと我慢していた。

「政道さんは無理やり笑顔作って、本音は隠して…、あの日も……。私は真戸先輩に恋するあなたを想ってた…。でもそれでも良かった」

「私を見てくれなくてもいい。支えて生きて行ければってそんな風に思ってた。」

「あなただけが私の全てだった…、でも失って、真っ暗になった。
でも、政道さんの遺体が見つかっていないと聞いて探そうと思った。
探しているうちに、喰種を沢山駆逐して…一度死にかけました。その時に助けてくれたのが平子丈上等です」

丈さん…、きっともう会えない。

「……」

「政道さんのことが忘れられなくて、平子上等には想いは伝えれませんでした。」

やっと、決心をした思いは消さないといけない。目の前にこんなに苦しみを抱える人がいる。

「……、辛いか?」
「いいえ、だって……政道さんの方がきっと辛い思いをしたんでしょう?」

「……」
「政道さんが私に会いに来てくれるとは思ってなかったです」
「…お前はあの時死んだって思ってた、俺は全部失ったって思ってた…。でもオークション会場でお前の声が聞こえた」
「…そうですか」

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