第5章 距離
翌日。真子から連絡があり、会社は暫く休んでももいいこと、そして結城さんが別部署に飛ばされたことを聞いた。
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「那子ちゃん、ゆっくり休んでね…」
あんなことあった後じゃ何も出来ないでしょう…?と真子に心配される。
「わたしはあの時、びっくりしただけで…」
まさか、好意を寄せられているなんて思っていなかった。
前に真子が『結城さんは那子ちゃんのこと好きだと思う』と言っていたこともあるけれど、割と冗談半分というか…というか、その前に(形だけとはいえ)結婚しているから安心しきっていた。
「録音したデータ、上の人呼んで聞かせたんだよね…そしたら結城さん、部署変わることになったの」
「え…?そんな大事になったの…??」
「でもあんな奴、那子ちゃんの隣に置いとく方が危険だから!次もあるかもしれないし、飛ばされて当然だよ」
「そっか…」
そんなこと、全然考えてもみなかった。
話を聞くところによれば、真子は結城さんのことが好きだったけれどそんなことよりもわたしのことが心配らしく…どこまでも優しい真子のこと、本当に信頼できる。自慢の親友だ。
「那子さん、ちょっと電話貸して?」
「う、うん…」
慧太くんがわたしのスマホを手に取る。
「…もしもし」
手に取ったはいいものの、緊張しているのか時々言い淀んでしまうところが何だか少し可愛らしくて。
「…じゃあそういう事で。これからも妻をよろしくお願いします」
慧太くんは少しだけわたしのことを真子に話して、電話は終了した。
「っは~…!緊張した…」
慧太くんの顔が一気に緩む。
「そんなに緊張しなくても…」
「えぇ?だって那子さんの大切なお友達、でしょう?」
那子さんの大切な人は僕にとっても大切な人だから、と彼は当然のように言う。そんなことをさらりと言ってしまえるところに、彼の育ちの良さを感じたりした。
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