第5章 距離
「もう今日は休みにして、那子ちゃんは帰っていいよ」
後処理はわたしがしておくから心配しないで、と優しい真子に言われるがまま帰らされるわたし。
結城さんにされたこと、そこまで大層なことではないけれど、真子からしてみれば…
確かに、同僚がセクハラに遭ったんだもんね。自分のことなのに何だか遠い景色を見ている感覚になってしまう。
「…ただいまー…」
「おかえりなさい…?」
玄関までお出迎えしてくれた彼は、あれ?今日は会社だったよね…?と不思議そうな目でわたしを見つめる。
「ちょっと、会社でいろいろあって」
帰ることにしたの、と靴を脱ぐ。
「そっか…」
事情を聞かないでいてくれるのは慧太くんのいいところ。でも、わたしが言わないと慧太くんは何も分からないまま。困らせる訳にはいかない…
「…うっ…」
自分でも安心したのか、ぽろぽろと涙が溢れてくる。
「どうしたんですか…!!やっぱり何かあったんでしょう…?」
ゆっくり聞くから話して…と、背中をさすってくれる。
「実は…」
わたしは今日のことを包み隠さず、彼に話した。