第5章 距離
「篠宮さん、ちょっといい?」
「は、はい!」
結城さんに呼ばれて、別室に移動する。
わたしが突拍子もなく結城さんに呼ばれる理由って何だろう…?
昨日の案件は真子が片付けてくれていたみたいだし、うちの部署に大きな仕事が舞い込んだという噂もないはず。
部屋の扉がパタリと閉まる。
「結城さん…?お話ってなんでしょうか」
「あのさ、その指輪…」
「これ…ですか?」
結城さんが指すのはもちろん、わたしが慧太くんに貰ったものだ。
「…篠宮さんって、彼氏さんとか居たっけ?」
それともただの虫除けとか?と怪しい笑みを浮かべる結城さん。
虫除けなんかじゃない。これは、大事な大事な、わたしと慧太くんを結ぶもの。
上司とはいえ指輪を馬鹿にしたこと、もちろん許せないけれど、それよりもこの人…怖い。
直感でそう悟った。
逃げなきゃ、何されるか分かんない。
「あの、何もないならわたしはこれで」
まるで何も無かったかのように仕事に戻ろうとすると、腕を掴まれた。
「俺は、篠宮さんのことが好きなんだよ?」
「…は…」
「俺にしとけばいいのに、ね?」
わたしの隙をついて結城さんは手を引く。
彼の顔が近づいてくる。
嫌だ、怖い…
助けを呼びたいのに、声が出ない。
誰か助けて…!