第5章 距離
日常に溶け込むように。
慧太くんと同じベッドで寝て、同じ屋根の下で暮らして。
昨日と違うのは、わたしの想いが彼に通じたことと左手の薬指に慧太くんとの約束があること。
「それじゃあ、いってきます」
昨日と同じように会社に行く…はず。
「那子さん!」
わたしを呼び止める慧太くん。あれっ、わたし何か忘れ物でもしたっけ……?
「あの、ね」
彼はわたしの頬に近づいて、ちゅ、とキスを落とした。
「…!!!け、慧太くん……!?」
彼があまりに大胆な行動に出るから、思わず声を出してしまった。
「行ってらっしゃいのキス……しちゃだめ、だった……?」
「いや、だめでは…ないけど…」
「なら良かった。行ってらっしゃい」
そう言って彼は子どものように無邪気に笑うと、玄関先から手を振った。
慧太くんは飄々としていて掴みどころがないというか…こんなことを毎日のようにされたら、もっと好きになって心臓が壊れるんじゃないか…なんて、通勤のルートを辿りながら考える。もしかして、女の子と付き合ったことがない、とか……?でも、あんなに素敵な人ならきっとお付き合いくらいはしたことがあるはず…
わたしは、慧太くんのことが好き。その想いは通じたようで、彼も「那子さんのことが好き」と言ってくれた。
でも、あんまり近づきすぎたら嫌われてしまう……?彼に向ける感情を、自制すべきかなぁ…