第4章 約束
「慧太くん、わたしこれにしたい」
彼に提案したのは、比較的値段の安い、当たり障りのないシンプルな指輪。飾りといえば真ん中に小さな宝石があしらわれているくらいの。
「…本当にこれがいいの?」
「うん、わたしはこれがいい」
……嘘。慧太くんとお揃いなら、もっと値段の高いものとか、宝石が豪華なものとか……たくさん思い浮かんだ。けれど、わたしばかりが我儘を言ってしまっても悪いかな、とありふれたものを選んだ。
わたしと慧太くんの関係も、突然結婚したこと以外は所詮そんな『どこにでもある男女の関係』だと思う。
「名前彫ったりとか、する?」
那子さんが要らないならいいけど…と彼は遠慮がちに言う。
「いらない、かな」
この結ばれた指輪には『特別』も『愛』もなにもない。
店員さんがわたしたち2人を笑顔でお見送りする。そんな夫婦ではないのにな、なんて思ってしまう。
買った指輪は、家に帰ってから着けることにした。慧太くんが指輪の入った紙袋を持つ。慧太くんの横顔をこっそり見ると、彼は緩く、柔く、微笑んでいた。