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蛇蝎の執愛

第1章 生殺しの蛇は人を咬む


ふと、力が緩められ、ユウは引っ張り起こされた。
「…なんてな。君は警戒心が無さすぎて困る。男にとって無防備だと据え膳だからな?」
意地悪に笑うジャミル。噎せかえるような官能は霧散した。ユウはムッとして仕返しと言わんばかりに抱きつき耳許で囁いてやった。
「嗚呼もう言ったそばから…」
「…ジャミル先輩だけです。エースや他の人にはこんなにくっつきません」
ジャミルは瞠目したあと、にやりと掌を首筋と背に這わせ、より密着するように抱き寄せた。
「…それは、誘っている、と受け取ってもいいんだな?」
「えっ、あっ、否、そういうわけじゃ…」
ユウは耳まで真っ赤になる。そういった意味に捉えられたのが恥ずかしかった。
「ククッ、分かっているさ、君に他意はないんだろう。」
顔を手で固定して楽しそうに覗き込んでくるジャミルの瞳には己のものより濃い慕情が浮かんでいることを感じ取り、ユウは驚いた。それと同時に、心の奥深くに隠して何重にも鎖を巻いて鍵を掛けた感情の枷が全て弾け飛ぶのを感じた。
「いいえ。他意、ありますよ。私は先輩が、その…好き、なので…。」
竜頭蛇尾に繰り出された台詞がジャミルを射程外から撃ち落とした。
「本当に君は…嗚呼もう隠していても意味がないな。俺は君を可笑しい位好いている。傷物にしてもう他の男に触れさせない為に閉じ込め枷を嵌めたい位に。」
ユウの体が緩く抱き締め返される。
「…傷が癒えたら、覚えてろ。」
初めてはっきり感じた執愛。それが蛇蝎のごとく厭われるものでも。
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