第2章 *注連縄
それから幾日後、傷が癒えた頃。とっぷり夜も暮れ、ユウはジャミルの部屋で寝台に座り初々しくクッションを抱き締めて脈拍を早く打っていた。
「すまない、遅くなった。」
薄明るい照明に照らされた、湯上がりのいい香りがするジャミルが長く美しい髪を拭きながら歩み寄る。
「いいえ、それ程でもありません。」
恥じらいながら寝台で待つ想い人にジャミルはそっと接吻を落とす。触れ合うだけの軽いものから、窒息死しそうな程深いものまで少しずつ深く。互いに離れる頃にはどちらのものともつかない唾液が口の端から伝い、寝巻きに歪な円い形を描いていた。ユウの、熱病に侵されたような浮かされた瞳がへにゃりと細くなる。
「ずっと、こうして居たい位…」
「君は本当に俺を煽るのが上手いな。」
軽い音を立てて押し倒された寝台からふとくらくらするような、酩酊しそうな甘い香の匂いがすることにユウは気づいた。特に、体温が染みた部分から強く薫っている。
「…なんだか、気持ちいい…。」
ジャミルに触れられた部分がふわふわした快さを熱と共に持っていた。
「香が効いている、か。君には気持ちよくなって欲しいからな。」
褐色の指が可愛らしい寝巻きを留めている心もとないリボンを解き、肩のラインをなぞってプレゼントの包装を開けていくように脱がせていく。ほの赤い光に照らされて、暴かれていく日に焼けていない肌目細かく滑らかな肌が劣情を煽った。
「ねぇ、先輩。」
「どうした?」
ユウは半分蕩けた思考でジャミルの頭を胸元に抱き寄せた。
「お慕いしています。先輩を毀損してしまいそうな位。」
程度は違えど同系色の感情が浮かぶ二人がこれまで以上に重なりあい絡まり合う。
「なんだ、そんなことか。俺もだよ、ユウ」
ジャミルは独占欲を証明するように、鬱血痕をユウの鎖骨の下に刻み付けた。