• テキストサイズ

蛇蝎の執愛

第1章 生殺しの蛇は人を咬む


傷が傷なので自室にユウを連れ込んだジャミルは、彼女の傷口に口づけ、割れ目を大きくするように舌を捩じ込ませ、傷を拡げる。痛みを堪える呻き声が別のものを連想させて、保定の為に華奢な肩を抑えていた手に力が入った。上書きの度溢れる鉄臭いような生臭いような苦く塩辛い血液さえ甘美なものに思えて、ジャミルはほぅ、と恍惚の熱い溜め息を吐く。
「…あの、先輩…?」
「…毒は塗られていなかった。大丈夫だ」
首元で喋られてユウが身動ぐ。それを気にせずガーゼを当て手早くきつすぎないように包帯を巻いた。
「先輩、くすぐったいです」
頬を膨らませているユウにジャミルは意地悪な笑顔を浮かべた。
「すまないな。そう言われるともっとやりたくなる」
突如始まった脇腹への擽りにきゃーっ、やめてー、とおどけた黄色い声が上がり、つい先程まで怯えていて固かった表情は消えていた。笑いすぎて涙目だ。
「降参、白旗、ギブアップです!」
ずるりと寝台に仰向けに転び、肌を赤く色づかせて潤んだ瞳で息も絶え絶えに訴える彼女の生殺与奪とまではいかなくともそれに近いものを握っていることに、嗜虐心を刺激される。思わず、生唾を飲んだ。口角が、歪んだ形に上がる。
「ほぅ?降伏か?」
「降伏です!」
なんとも言えない愛らしさにジャミルはくつくつと笑ってつんとした低く丸い鼻にキスをする。
「うわ!?何ですか!?」
特段隠す理由もない為、思ったことを素直に口にした。
「君が可愛いからな。俺のやりたいようにやった」
「…可愛くなど…どうせ、不細工ですから」
からかわれたと思ったユウが諦めたような顔でジャミルの胸板に額を預けた。確かに彼女の目付きはよくない。容姿は平々凡々だ。性格がとんでもなく可愛い訳でもない。強かなほうだ。
「…君は愚かで可愛いな。俺は君を二度も洗脳に掛けた男だ。そんな男にのこのこ着いていく君が可愛くて、憎い」
ジャミルは寝台にユウに跨がるように乗り、彼女の肩をシーツに縫い止める。白いシーツに拡がる黒髪が扇情的な視覚的情報として本能を刺激する。
「君は女で、俺は男。こういったことが起こるなんて考えなかったのか?随分と目出度い頭だな」
近づく官能的な異国の香りと、欲情した美しい男。ユウはそれらから逃れようと身を捩る。無駄なことを、と男は嗤った。
/ 8ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp