第3章 【前日譚】男だったら
「男だったらよかったって思ってたのって、悠だけじゃないんじゃない?」
言ってくれなきゃわからないのに、神楽は女だから野球しちゃいけない理由を教えてくれなかった。
教えてくれなかったんじゃない、あの時神楽も本当は俺とおんなじで、なんで女だから野球しちゃいけないのかわからなかったんじゃないか?
困ったようなあの顔は、気遣いじゃなくてわからないからなにも言えなかっただけなんじゃないか?
神楽が大人になったんじゃない、周りが大人になることを強要したんだ、女だからって言って
それがわかった瞬間、体がカッと熱くなった。
思い出すのは『神楽が男だったらなあ』と言った無神経な自分だ、そんなの神楽が一番思ってることなのに!
「俺、今日神楽に酷いことしたかもしれない」
どうしよう、とにーちゃんを見る、にーちゃんはしょうがないやつだな、と笑った後にかーちゃんに向かってちょっと悠と散歩行ってくる〜、と声をかけた。
それを聞いた瞬間俺は弾かれるように玄関に走る。
「いってきまーす!」
返事もろくに聞かないで、にーちゃんも待たずに玄関から飛び出て神楽の家に向かう。
家はすぐ隣だから時間はかからない、神楽ン家の敷地に入るとインターホンを一回鳴らす。
こんな短い距離しか走ってないというのに息が嫌に上がってしょうがない。家の明かりはついてるから多分居る…と思う。
奥からどたどたと足音が聞こえる、にーちゃんまだきてないよな?と後ろを振り返る、人影はないからまだきてなさそうだ、どこかホッとしていると、玄関を開ける音が聞こえて慌てて正面を見た。
「悠ちゃん?」