第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
「しのぶ、城下に行くぞ。付いて来い。」
「…はいっ?なんでですか…?」
自身の部屋の襖を開け放って現れた謙信に驚きを隠せないしのぶ。その横ではふるふると一人の少女が怒りに震えていた。
「…え…ちご…の…りゅうぅぅぅ…!!」
勿論、冬である。彼女はせっかくしのぶと二人でゆっくりと話していた時間に突然割り込まれて、腸が煮えくり返っていた。
「…ああ、あの時の小娘か…。しのぶは借りてくぞ。」
「はい…?って…ちょっと、謙信様?!」
「お姉様っ!…このっ!」
そう言って、しのぶの手を掴んで行こうとする謙信を止めようとする冬に刺客が現れた。
「…ごめん、冬さん。恨みは無いんだけれど眠ってて。」
「なっ…!?………っ。」
突然背後に現れた、佐助に強力な睡眠薬を嗅がされ意識を失った冬。
ドサっ…。
「…本当に、謙信様は無茶ばかりを俺に注文するんですから。…これで、上手くいかなかったら怒りますからね。」
佐助は倒れてしまった冬に申し訳なく感じながらも、行ってしまった二人がいい方向に進むように祈るのだった。
ザッザッザッ…
「…ちょっと、何処まで行くんですか?」
しのぶはいきなり、謙信に連れ去られた事により得体のしれない謙信の行動に不信感を抱いていた。そうとは知らずに、謙信は話しだした。
「言っただろう?城下に行くと。…何か欲しいものはあるか?」
そうしのぶに問う謙信。しのぶは突然の謙信の行動に疑問を感じながらも、この間は世話になったので大人しくしておこうと考えた。
「はぁ…特にはありませんけれど。それが、どうかしたんですか?」
しのぶは不思議に思い、謙信に聞いた。
「…せっかく、春日山城に来たのだ、何か、残る物をお前に贈りたい。」
「…謙信様。」
謙信の意外な言葉に目を見開いていたしのぶが提案をしようとしていたときだった。
「団子〜団子〜!美味しい団子だよ〜!!」
その声に振り向くと、ある甘味処の客寄せの様だった。それを見て、しのぶはある事を思いつく。
「…ふふっ…謙信様、甘味処に寄りませんか?」
こうして、二人で茶を飲みながら団子を食べていた。
「ふふっ…美味しいですねぇ。」
「…俺は、甘い物は好かん。」
「あら…、では何故ついてきてくれたのですか?」
「…お前が行きたいと言ったからだ。」
謙信は呟いた。