第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
場所は変わって、謙信の私室。其処には異様な空気が立ち込めており、入室する者を拒むかの様だった。勿論、その雰囲気を感じ取った女中はある人物の下に助けを求めに行く。
「…謙信様の部屋から異様な雰囲気が漂って来るんですか?」
「…はい、とても恐ろしくて近づく事ができませんでした。…佐助様、どうすれば良いのでしょうか?」
女中は謙信の右腕とも言える佐助に助けを求めた。彼は深く考え込む仕草をしたあと、思い付いたように顔を上げた。
「…取り敢えず、俺が部屋の中を見てきますね。」
「宜しくお願いします、佐助様。毎度のことながら、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。」
「いえいえ、あの人の事だからまた斬るとか言ってきそうですし、俺の方が都合がいいと思いますから。そんなにお気になさらないでください。」
佐助の言葉を聞いて女中は詫びるように頭を下げたあと、其の場を去った。こうして、佐助は異様な雰囲気を出している上司の下に向かうのだった。
「うわっ…此れは酷い。確かに普通の人なら無理だ。」
それもそのはずだった。謙信の部屋からは異様な緊張感か分からないが変な雰囲気がだだ漏れしていた。佐助は自身の主に注意すべく、その襖を思いっきり開けた。…其処には刀の手入れをしながら、ずっと刀を睨んでいる謙信の姿があった。
「…なにやってるんですか、謙信様。殺気だだ漏れですよ。」
佐助の言うとおり、謙信は無意識に刀に向けて殺気を放っており、その光景は謙信を知るものからしたら変なものであった。
「…ああ、佐助か。何か用か?」
「…何か用かではありませんよ。殺気だだ漏れです。…本当にどうしたんですか。」
それを聞くと謙信は少しだけ言葉に詰まった。
「…その、しのぶに何か贈り物をしてやりたいと思ったが何を贈れば良いのか分からなくてな。こうして、刀を磨くことで気分を紛らわせていた。」
謙信の言葉に佐助は固まった。…やはり、あの時の自分の考えは間違っていなかったと!
「…じゃあ、しのぶさんに決めてもらえば良いのでは?…一緒に城下に行ってきたらどうですか?」
佐助はしのぶと謙信を現代で言うデートをさせることによって、親睦を深めようと作戦に出た。
「なるほど、一理あるな。…よし、しのぶを城下に行くのに誘うぞ。」
そう言って、謙信は自身の部屋を出て、しのぶの部屋に直行した。