第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
「…なにっ?…信玄、お前…。」
謙信が信玄の不可解な行動に一つの解答を得る。それを確かめようと彼の方を向けば上手くはぐらかされた。
「まあまあ、俺はあの日以来、中々天女に会えなかったんだから、少しくらい俺に譲ってくれよ。なあ、謙信?」
その言葉を聞いて、謙信は自分の中に彼女を譲りたくないという気持ちが芽生えている事を感じた。
「…断る、しのぶがこの城に来ることを条件にしたのは俺だ。貴様に譲る気は毛頭ない。…行くぞ、しのぶ。」
「えっ…?あっ、ちょっと…!」
そう言って、彼は戸惑っているしのぶの手を強引に取り、城内に向かい始めた。後を追うように、佐助もついていく。それを見ていた、信玄と幸村は溜息をついた。
「ありゃぁ、随分とご執心だな。…天女、大丈夫か?」
信玄はからかうように、去って行った三人を見つめる。そんな彼を見て、幸村は呆れた顔をした。
「はぁ、どの口が言ってんだか…。あんたも同じでしょーに。」
「…そうかもしれないな。流石、俺の幸。良くわかったな。」
信玄がにこやかに微笑むと幸村は寂しそうな顔をして彼を見つめた。
「…あいつにしゅじゅつして貰ったら、きっと同じ土俵に立てますよ。」
「…そうなると、いいなぁ。」
信玄の呟くような小さな声は幸村にしか聞こえなかった。
一方、しのぶに着いてきていた冬は女中としての仕事を覚えるために既に春日山城で仕事をこなしていた為、しのぶとは別行動だった。そのため、この騒動については知る由もなかった。…まあ、知ってしまえばどうなることか想像付くだろうが。以下の通りである。
「…っあの男!!お姉様にそんなことを!やっぱり、あの時殺しておけば良かったです!!」
「…冬、落ち着きなさい。私は大丈夫だから。」
「私が大丈夫じゃありませんっ!!…お姉様、今すぐに安土城に帰りましょう!此処は危険過ぎます!越後の龍も甲斐の虎もみんなお姉様を狙っているのですよ!?…今すぐにでも、帰るべきです!!」
「でも、協定の条件だし…。」
その言葉を聞くと、冬はすくっと立ち上がり何処からか鉄球を取り出した。…鉄球っ?!
「…お姉様、ご心配なさらないで下さい。ちょっと脅………交渉してきますね。」
彼女は満面の笑みを浮かべて、宛行われた部屋から出ようとする。それをしのぶは慌てて止めた。
「それは駄目だからっ…!」