第1章 IFストーリー 安土の蝶と越後の龍 「琴菜様リクエスト」
天幕から出て来た、謙信に佐助が駆け寄った。
「…謙信様、あんな事言って良かったんですか?俺的には彼女の側に要られるのならこの上なく嬉しいことですけれど…。」
佐助は謙信の横顔を見つめて、少しだけ心配そうな顔をした。そんな佐助に謙信は呟いた。
「…しのぶは信玄を救うことの出来る唯一の女だ。安土城に居るのは惜しい。いずれ、必ず春日山城に迎える。」
謙信はただ自分が思っていた事を口にした。正直なところ彼は何故彼女をここまで気に掛けるのか分からなかった。自分自身の知らない感情に疑問を感じながらも、彼女、しのぶに会えば分かるだろうと思い、彼女の居る岐阜城に向かう準備をしようと上杉軍の所に戻って行った。…ある一人の忍が固まっている事も知らずに…。
「…謙信様が…しのぶさんを?……っこうしてはいられない!春日山城で彼女を迎える準備をっ!!」
こうして、勘違いは加速していき、春日山城全体へ広がっていった。…それが、勘違いになるかどうかはこのあとの話に続いていく。
激戦を終えた数日後、安土の姫、しのぶが春日山城に四日間滞在するためにやって来た。…勿論、しのぶの従者となった冬も一緒だ。本当は陽が行くはずだったのだが、今回の戦の件で完全に謙信を目の敵にした冬は、何としてもお姉様を守り切らなければと自ら名乗りを上げたのだ。それに感心して陽も彼女に任せたということらしい。
「…ふふっ…皆さん、お久しぶりです。」
しのぶはいつものように見る者を魅力する美しい笑顔を謙信達に向けた。
「…ふっ、漸く来たか。待っていたぞ。」
謙信は彼女に会えたことに喜びを感じながらも、城内を案内しようと手を差し出す。その様子に待ったをかける人がいた。
「おいおい、それはないだろ、謙信。…天女は俺にも挨拶してくれたんだからさ。なぁ、麗しの天女?」
信玄が不満を漏らすように彼らの間に入った。それを見た謙信は苛立ちながら、呟いた。
「…信玄、貴様…しのぶを口説く事は許さん。…そもそもこの時間帯は城下の他の女共を引っ掛けてきている癖に何故今日に限ってここに居る?」
それを聞いていた幸村が呆れた顔をしながら説明した。
「…はぁ、今朝から信玄様はしのぶが来るって張り切っていたんですよ。それも、女共の誘いを断るほどに…。本当に信じられないでしょう?」
幸村は呆れて肩をすくめた。