第1章 田中龍之介
放課後…
昨日貸してもらったジャージを返しに体育館に来ている。
本当はこのまま持っていたかったけど…。
先輩の匂いが消えてしまうのが嫌だから洗濯したくなかったけど、さすがにそれはダメだと思って洗った。
だから今この袋の中にあるジャージはもう先輩の匂いではない。
我が家の柔軟剤の匂い。
嗅ぎ慣れたいつもの匂い。
先輩の匂いが良かったなぁー。
って、そんなことより…
先輩と普通に話せるかな…
昨日なんか思いっきり告白しちゃったけど、先輩困ってたよね絶対。
あ"ーーーーどうしよう。
先輩いるかな…
「ひのちゃん?」
「縁下さん‼︎
よかった…。あの…田中先輩にこれを渡しに来たんですが入ってもいいですか?
あ、やっぱりやめます。これ縁下さんから渡してもらってもいいですか?」
「田中いるよ、ひのちゃんから直接渡しなよ。ほら、入って入って」
縁下さんに背中を押されながら体育館の中に入った。
「田中ー」
先輩がこちらを見た。
ちょこんと頭を下げると、こちらへ走ってきてくれた。
「よぉ」
「こんにちは。えっと、昨日お借りした服を返しに来ました。
ありがとうございました」
「おう。風邪ひかなかったか?」
「はい、先輩のおかげで大丈夫でした」
「そっか、なら良かった」
「じゃ、私はこれで。練習頑張ってください」
「帰んのか?」
「…はい。今日は帰ります。いつかまた来たいと思います」
「じゃ…」
と体育館から出ようと歩き出した。