第1章 田中龍之介
せっかく誘ってもらえたのだからと一緒に帰ることに決めた。
部室のそばで待っていた私に気付いた田中先輩。
「ひの悪りぃ、遅くなった。つぅか、こんなとこじゃなくて体育館の中で待っとけばよかったじゃねぇか」
「今来たばかりなので…」
「そうか。今急いで着替えてくっから待ってろよ」
階段をダッシュで登っていく先輩。
「あれ?ひのちゃん。久しぶりだね」
「縁下さん…お疲れ様です」
「なんか元気ないみたいだけど…。今日、田中と帰るんだって?田中ってば練習中も心ここにあらずの状態でさ…。ミスばっかりして大地さんに怒られたり」
「そうですか…」
田中先輩、何で私と帰ろうなんて思ったんだろう…
「……ちゃん、ひのちゃん、おーい」
「え、あ、はい!」
「大丈夫?なんかすごく考え込んでる感じだったけど」
「い、いえ、大丈夫です、ごめんなさい」
「田中さぁ、あれから全然ひのちゃんが練習見に来なくなったから心配してたみたいでさ。自分が何かひのちゃんの嫌がることしたかもしれないって…。もしかしてそうなの?」
「違います、そんなんじゃないです‼︎ただ…」
「ただ…?」
「田中先輩に好きになってもらえる事なんてないんだろうなって思ったらなんか悲しくなってしまって…。だから先輩のこと諦めようって。諦めるためには見ない、会わない、話をしない…かなと」
「どうして好きになってもらえないなんて思ったの?」
「え、だって、田中先輩はバレー部のあの綺麗なマネージャーさんのことが好きなんですよね。私でも分かるくらいだから皆さん知ってると思ったんですが」
「あぁ、あれね…。あれは多分…」
「悪りぃ遅くなった」
「いえ…」
「じゃ、帰るか」
「はい…。では縁下さん、お疲れ様でした」
「お疲れ。またね、ひのちゃん」
ひのちゃん勘違いしてる…
田中にとっての潔子さんはそんなんじゃないと思うんだけど…