第1章 田中龍之介
「さ、帰るよ」
「うん」
「そんな顔するくらいなら素直に田中さんに送ってもらえばよかったじゃない」
「ごめん…」
「はぁ〜まったく、見ててイライラする」
「ごめんなさい…」
私だってこんなにウジウジしている自分が嫌い。
月島くんがイライラするの分かる。
でも、どうしていいか分かんないんだもん。
あとどれくらいしたら先輩のこと諦める事ができるのか分かんないんだもん。
気が付いたら、涙が止まらなくなってた。
また月島くんになんか言われる…
月島くんに迷惑かけてる…
分かってるけど…涙が止まってくれない…
「ほら」
そう言われて見てみると、ハンカチが出されていた。
「使って」
「…りが…と」
「ほんと、田中さんは佐倉がこんなに泣いてること分かってないんだろうね」
「…ん…」
月島くんは、うつむく私の頭を優しく撫でてくれた。
「田中さんをちゃんと諦める事ができたらさ……僕んとこおいで。
僕が君を彼女にしてあげるから」
「月島くん…が?」
「何かご不満でも?」
「いえ…ビックリしただけ」
「そっ」
「でも、君が僕の彼女になる事はないと思うけどね」
「え?」
「なんでもない」
だって確実にあの人の中に嫉妬心が生まれたと思うから。
ほんと、手のかかる人達ばかりだよ、僕の周りは。