第1章 田中龍之介
「おっ、佐倉じゃねぇか。なんか久しぶりだな」
「…お久しぶりです…」
「お前もうバレーに興味なくなったのか?あんなに楽しそうにしてたのに来なくなったからよ」
「………」
私は何も答えられず、ただ下を向いていた。
「お前、今から帰んなら送ってくから一緒に帰ろうぜ」
ちょっと前までの私なら泣いて喜ぶところだけど今は違う。
先輩の事を早く諦める努力をしている今は嬉しくない。
「いえ…いいです。1人で帰れますので…」
「何言ってやがんだ。お前まさかまた遠慮してんのかぁ?別にお前を送る距離なんて大した距離じゃねぇって言ってんだろうが」
田中先輩の言葉が優しくて嬉しいのに、喜べないのが辛い。
「田中さんすみません。ひのは僕が送るので大丈夫です。
ねっ?ひの、一緒に帰ろ」
「え⁉︎月島くん?」
「お前、名前…呼び」
「え?あぁ、はい。クラスも一緒なのでいつもは名前で呼んでますけど。ね、ひの」
いやいやいや、今まで名前で呼ばれたことなんてないよ。今初めて名前で呼ばれましたけど。さっきだって佐倉って呼んだじゃないのよぉ。
「うん…」
「そうか。じゃあな」
腹減ったーと言いながら遠ざかっていく田中先輩。