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名もない物語

第9章 【溢れ返ってきたヨッパライ】



―叫喚地獄―

「酔ってませえん!酔っておらんでござんす!!」

「随分薄いねアンタ、もっと食べなきゃダメよお~」

地獄の中でも4番目に恐ろしいとされる叫喚地獄。

そこには、全裸であったりタクシーの上に乗ったり看板に話しかけるエトセトラエトセトラ…

とにかく、凄い状態だった。

「……だからついて来るなと言ったでしょう」

「酒くさ~…」

「…………」

予想以上の惨状に白澤と桃太郎が青ざめる。

「ここの亡者の罪自体は『酒乱による悪業』なのですが……本人に記憶がなくて反省しない者が多いのがここの嫌な特徴です」

「…自覚がないと人ってへのかっぱですからね……」

「ちなみに『一気の無理強い』『下戸への強制』この罪に関しては高度経済成長期以降いっひにふえまひは」

あまりの臭さに耐えられなかったのだろう。
会話の途中で鼻をつまんだため、鬼灯の声が鼻声になる。

「アレッ?そういや酒を奪われたっていう八岐大蛇は……」

「さっきからそこにいますよ」

鬼灯が指さした先には、見るからにしょんぼりしている巨大な蛇がいた。

「須佐之男命に倒されて以来のショック……」

「ここには酒類持ち込み一切厳禁なの貴方もよく知ってるでしょう!」

「ごめんなさい……どうしても飲みたくて……」

日本神話のけっこうな中ボスが叱られてうなだれているのを見て桃太郎が残念そうに声をあげた。

「あー…しかし……俺スサノヲの武勇伝って好きなんですけど……八岐大蛇アレかぁー…」

そんな桃太郎に対し、白澤はいつもの笑顔で説明を書いてあげる。

「古事記の説明こんなだっけか。あ、デッサンは割とよく描けた、ね?」

「…『イソギンチャクに人の精神を抉るような顔のついている』絵ならよく描けてます……」

白澤の絵の酷さを目の当たりにした桃太郎。

そして、いつの間にか向こうにある酒を取り返そうと奮闘していた八岐大蛇がすごすごと帰ってくる。

「ダメだ、取り戻せません。すごい死守してます……」

「……いえ、この状況は取り戻す云々ではありません。かえって騒ぎが大きくなってしまう」

その時ーー
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