第7章 【かちかぢごく】
がぱたん、と本を閉じる音以外何もしないほど獄卒たちは黙りこくってしまう。
それほど今の話がこたえたのだろう。
「悪因悪果、天網恢恢。これが地獄で最も大切なことです」
「…結構、凄まじいというか……」
獄卒の一人が震えながら言う。
「昔話とは凄まじいものです。そもそも狸は杵でお婆さんを殺.した上、お婆さんの肉で作った汁物をお爺さんに食わせたのですよ。そんなもの示談で済みますか?」
「この狸が残酷なことをしていないと、今度は、兎の報復の仕方が酷すぎることになる……それだと、本末転倒」
「泥船を作っている時の兎はどんな気持ちだったのか…皆さんもよく考えてみてください。地獄とは正にこのためにあるのです。そんな訳で」
パンパン、と手を鳴らす。
「そのうさぎどんに来てもらっています。現在は獄卒として地獄で働いています」
「芥子です。以後お見知り置きを。じわじわ報復する、それがモットーであります。私は思うのです。今の世にこそハンムラビ法典のような精神が……あ、草」
話の途中にもかかわらず、もしもしと草を食べ始めてしまう。
ちなみにハンムラビ法典とは、「やられたらやりかえせ」の意味で使われる言葉の象徴のようなものである。
「まあまあ皆さんも一服どうぞ。あ、それともう○こ食べます?」
「こらこらレディーがう○こ持ったりするもんじゃありません」
「あ、メス?」
「でも思ったより謙虚だな」
「報復の仕方考えるともっと怖い奴想像してたよ」
「ヤですよ、そんなもう過去のことですもの。今は仕事一筋ですよ」
ピョンピョン可愛らしく飛び跳ねる芥子。
そんな彼女の腰から何かノートのような物が落ちる。
「あ、何か落としたよ」
獄卒の一人がそれに気づき拾うとしたが、たまたま開いてしまったページに書かれたものを見て動きを止める。