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名もない物語

第7章 【かちかぢごく】


[おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸おのれ狸]

その時、芥子が自分の肩から下げていた鎖から

櫂を抜き、思いっきりその獄卒の手の甲を殴りつける。

「…ま、心の闇は誰にでもあるってことで」

「さあ、雑談はその辺にして、今日は芥子さんの拷問実演が目的なのですから」

「まずは芥子味噌の作り方ですが私の場合、昔は蓼の葉の汁を使っていました。唐辛子は江戸時代からですね。今はハバネロやジョロキアもいいですよ」

「へえ~詳しいな、兎なのに」

「……兎と薬草は、縁深し」

「あとは熟成させるだけです。完成品はこちら」

トン、と傍に置いてあった壺を取る。

「さて、どなたに塗り込みましょうか」

「……ここは如飛虫堕処…嘘をついて大儲けした人が堕ちる地獄。横領、脱税、詐欺…とか」

「現世ではそういう者を“狸”親父と言いますよねえ~~~」

その瞬間ーー芥子にスイッチが入る。

ーー狸…おのれ狸おのれ狸おのれ狸

「ヒイイイイイイやっぱりまだ恨んでる!」

そう叫んだのは先程芥子に叩かれていた獄卒だった。

「狸めぇえぇえぇぇこの悪党がぁあぁああお婆さんを殺した悪党がぁあぁああ」

亡者に火をつけ、芥子味噌を塗り…しまいには通りすがりの文福茶釜を櫂で叩いている。

「彼女は“狸”という言葉に反応して深層心理にあるストレスをブチまけてしまいますか」

「とんだ病み兎!!!」

「こういうブッ飛んだ獄卒が最近少ないんですよねえ~~~」

「みんな、無粋でいい子……つまらない」

「アンタらもとんだ病み鬼神!!」
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