第6章 エースの心情
エースside
朝、目が覚めるとまたあいつの腕の中で眠っていた。
この状況で目が覚めるのは二回目だ。
たが、ここに来て二日しかたっていないのだからここではこうやってしか目覚めていないことになる。
人の温もりなんか要らないと思っていた。
じじいも俺のことは大事にしてくれていたという自覚はある(行動で示されたことなんか滅多にないけど)。
血の繋がりのない俺を孫のように思っていてくれたことも知っている。
でもここに置いていかれたときは正直厄介払いをされたのかと思った。
海軍の中将が海賊王の息子なんかと一緒にいていいわけはないから。
今度はどこに連れていかれるのかと思いながら今まで育ててくれたじじいに迷惑をかけるつもりは微塵もなかったから素直にじじいの元を離れようと決めていた(引きずってこられたが)。
どんないかついやつに俺は預けられるんだろうって思ってたけど、じじいが叩いた扉の向こうからは、今まで見てきたどんな人間よりも綺麗なやつがいた。
2年とちょっとしか生きていない俺が言うのもなんだけどそいつはとても綺麗だった。
金の髪も、桃色の目も、纏っている雰囲気も、心に直接入ってくるような声も、全部俺なんかが見たり、聞いたり、関わったりしちゃいけないような存在に感じた。
何でじじいと知り合いなんだ?
眉間に皺を寄せながら考えているとそいつが俺の前にしゃがみこんで目線を合わせてきた。
『私恋歌っていうの
貴方のお名前教えてくれるかな?』
聞いたこともないような優しい声で俺に話しかけてきた。
でも俺は"鬼の子"だからこいつに関わっちゃいけないと思って無視しようと、睨み付けた。
だが視線を背けるどころかずっとニコニコしながら俺を見ていて自然に
エ「エース…」
と、口から出ていた。
『そっかエースね
これからよろしく!』
そう言ってまた笑ってくれた。
よろしくってことはこれからこいつと一緒に住むのか?
まぁすぐに嫌気がさして追い出されるだろうからいいか。
俺なんかがこんな綺麗な存在と一緒にいていいわけはないのだから。
母親なんかどうせ口だけだろ。
今までじじいの忙しいときに相手をしてくれていた女は無表情で全く子どもらしくない態度に皆気味が悪くなって俺に関わらなくなった。
だからこいつも一緒だと思ってた。