第12章 藤の家
それは鬼殺隊に入隊して、一年経ったくらいのことだった。義勇と陽華は、任務の後に二人でこの藤の家に訪れていた。
手厚いおもてなしを受け、いざ就寝と言う時のことだった。
寝ようとお布団に入って横になっていた陽華の部屋に、義勇が突然入ってきて、枕元に座ったかと思うと開口一番にこう言った。
「陽華、あのご婦人は人間ではないかもしれない。」
「は?」
義勇が言うには、布団で寝ようとしたら、気が付かないうちに枕元に立っていて、洗濯済みの隊服に置いていったらしい。
「優しいじゃん。」
「いや、それだけじゃない!今日何度も後ろを取られた!隣の部屋にいたと思ったら、すぐ横にいるし。それにまったく、気配を感じないんだ!」
珍しく、義勇が狼狽えながら言った。陽華は大きく欠伸をすると、
「はいはい。明日も早いから、寝なよ。」
と、目を瞑った。
「……。」
それでもまったく動く気配のない義勇を不思議に思い、陽華は目を開けて義勇を見た。
「…どうしたの?」
義勇はバツの悪そうに目線を反らし、小さく呟くように言った。
「…隣で寝てもいいか?」
恥ずかしそうにモジモジする義勇を見て、陽華は思い出した。義勇は怪談系が苦手だった。昔、錆兎に怖い話をされて、厠まで一緒に連れて行かれたことを思い出した。
陽華は笑いだしたいのを必死に堪えると、
「あれ?今までの自分は捨てるんじゃなかったっけ?」
と、意地悪く言った。すると義勇は唇を真一文字にきゅっと結び、立ち上がり部屋から出ていこうとした。陽華はちょっと可哀想になり、義勇の背中に向けて「いいよ。」と声を掛けた。
義勇は振り返り、パッと顔を輝かせると襖を開け、隣の部屋に敷かれた布団を引っ張ってきた。
「同じ布団で寝たいのかと思った。」
陽華がそう言うと、義勇は、
「そんな子供じゃない!」
と、心外そうに言った。
(どっちも変わらないと思うけどな。)
陽華はそう思ったが口には出さないでおいた。