第12章 藤の家
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夜の帳も下り、お風呂で汗を流した陽華は、縁側で夕涼みをしていた。そこに同じく風呂上がりっぽい炭治郎が現れた。
「陽華さん、俺も横に座って涼んでもいいですか?」
陽華はどうぞ、と手で示すと炭治郎は嬉しそうに横に座った。そして、鼻をくんくんと鳴らした。
「お風呂上がりの女の人って、すごくいい匂いがしますよね?俺、好きです。」
「炭治郎、それってあまり、女の人の前で言っちゃ駄目よ。変な誤解されるか、変態だと思われるから。」
「え?そうなんですか?」
炭治郎は目をぱちくりさせながら答えた。その可愛らしい姿に、陽華は目を細めた。
「それにしても、陽華さんと冨岡さんて、美男美女ですごいお似合いですよね。」
「そう?ありがとう。」
「でもなんか、幸せの匂いの中に、切ないような…悲しいような、複雑な匂いがします。」
「…そこまで解るの?炭治郎には嘘つけないな。」
陽華は苦笑いを浮かべた。
「あいつね、本当に水みたいヤツなのよ。……優しい雨のように温かく包んでくれると思ったら、突然、真冬の川のように冷たくなる。やっと掴めたと思ったら、指の間から流れ落ちていく。本当に捕えようのない。でも悔しいことに、生きていく為に必要不可欠なのよね。」
「…なんか、難しいですね。」
「…炭治郎は恋したことある?」
陽華の質問に炭治郎の顔が赤くなった。
「あっ、いや、俺は妹や弟達の面倒でそれどころではなかったので。」
「いいお兄ちゃんだね。炭治郎も恋をすればわかるよ。」
そう言って微笑んだ陽華はとても綺麗で、炭治郎は顔がのぼせて行くのを感じ、慌てて顔を反らした。
「くしゅんっ!」
その時、陽華が小さくくしゃみをした。
「さっ、寒くなってきたから、涼みはおしまい。もう寝よ。炭治郎、おやすみ。」
「あ、はい。おやすみなさい。」
炭治郎にバイバイと手を振り、陽華は自分の部屋に入っていった。