第11章 風柱
「あいつ、呼吸がつかえねェみたいでよォ。」
「え?鬼殺隊に入ったのなら、選別を突破してるんだよね?呼吸を使えないのに、生き残るなんて…。」
人外の力を持つ鬼を倒すには、呼吸による身体強化が必須となる。陽華は怪訝な顔で、首を傾げた。
「だろォ?悲鳴嶼さんは、はっきり言わねェけど、俺はなんか危険なことしてんじゃねェかってさァ…」
そう言うと、実弥は焚き火を見つめた。それ以上何も言わなかった。
そんな実弥の姿を見て、陽華はぶっと吹き出した。
「…やっぱ、心配してんじゃん。」
陽華の言葉に、烈火のごとく顔を赤くした実弥はギロッと陽華を舐め付けた。しかし、チッと舌打ちしたかと思うと、観念したかのように自分の本当の気持ちを喋りだした。
「そうだよ。俺が鬼を殲滅しまくってんのはあいつのためだ。…あいつにはさァ、死んじまった兄弟や、俺が殺しちまったお袋の分も長生きして、幸せになってもらいてェんだよ。」
実弥はゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、さらに言葉を続けた。
「辛い修行をして、命懸けで鬼と戦ってよ、柱になって、お館様にお願いして、あいつが暮らしてる地域担当にしてもらって…。それなのに、あいつはこっちの世界に来ちまったァ。」
そう言って、ごろんと横になった。
「なんだかなァ…。って、」
実弥は夜空を見つめた。焚き火に照らされたその横顔は、附に落ちないような、複雑な表情を浮かべていた。