第10章 最終選別
それから、数日が過ぎても、錆兎が陽華の目の前に現れることはなかったが、寝込んだままの義勇は、目を覚ました。
目覚めて、錆兎の事を聞いてからの義勇は、もう手が付けられない状態になった。
一切食事を取らず、時たま感情が制御出来きなくなり、癇癪を起こしたようになった。夜中になると、小さくすすり泣く声も聞こえた。
そんな義勇を陽華は献身的に支え続けた。陽華の傷も深かったが、支えるものがあると、冷静になれる。
義勇の存在が陽華に生きる活力を与えてくれていた。
義勇が、食事も取らずに伏せてから数日後、義勇に変化か起こった。陽華が献身的に運んでいた食事を漸く、口にしてくれたのだ。
どんなに絶望していても、生きていれば腹が減るらしい。
義勇は冷たくなった粥を一口、口に入れると、錆兎を犠牲にして自分が生き残ったことを実感したのだろう。静かに涙を流した。
さらに経つと退院許可も降り、陽華は項垂れる義勇の手を握り、引きずるように狭霧山へ帰った。
先に鴉で報告を受け取っていた鱗滝は、帰って来た二人を、何よりも先に抱き締めてくれた。
それまで、気力だけで頑張っていた陽華も、その時だけは、自分の瞳から溢れ出した涙を、止めることが出来なかった。
鱗滝に抱きつき、大声で泣いた。
それに釣られて、放心状態だった義勇も泣き出し、鱗滝の目にも涙が溢れた。
三人は抱き合った格好のまま、しばらくの間、泣き続けた。
それからさらに一週間ほど経ったが、義勇はまだ引きこもったまま出てこなかった。