第10章 最終選別
ー 八年前
トントンっ。
鱗滝家の茶の間で十三歳の陽華は、お粥の乗ったお盆を片手に持ち、もう片方の手で隣の部屋の戸を軽く叩いた。
「義勇、入るよ。」
返事はない。陽華は暫く待ってから、戸を開けた。
中央に引かれたお布団には、昼間だと言うのに、掛け布団を頭まで被った義勇が横たわっていた。
「義勇、ご飯ここに置いとくね。」
陽華はお布団の横にお盆を置いた。もちろん義勇はピクリともしない。
「ちゃんと食べてね。」
そう言うと、陽華は立ち上がり、部屋から出た。戸を閉めると、陽華は静かに戸に耳を当てた。
しばらくすると、カチャと食器がぶつかる音が聞こえ、陽華は安心したようにフーッと息を吐いた。
最終選別から二週間ほど経っていた。
あの藤襲山での最終選別は、陽華の心にも深い傷を残したが、義勇の絶望はそれ以上だった。
選別で陽華は、最後の方まで錆兎とともに行動していた。
義勇が致命傷とも言える傷を追った時、義勇は「まだ戦える」と言ったが、錆兎は「傷を治療するのが先だ!」と一蹴した。
陽華は義勇に付いててあげたいと言う気持ちがあったが、錆兎の「鬼を殲滅した方が早い」と言う言葉から、義勇をその場にいた、真ん中分けの少年に預けて錆兎に付いていった。
言葉通り、山にいた鬼の頚の、ほとんどを錆兎は切った。陽華はサポートに回っていたが、最後の方で腕に深手を追ってしまった。