第9章 ※誘惑
行灯の光が揺らめく薄暗い部屋に、二人の唇が重なり合う音が響いた。そのまま義勇は陽華から唇を離すと、その細く白い首筋に唇を這わせた。
その瞬間、陽華の体がビクンと大きく震えた。
義勇が驚いて、陽華の顔を見ると、陽華は目をしっかり瞑り、何かに耐えるように、唇を真一文字にきゅっと閉じていた。
その姿を見て、義勇は鼻から小さく息を漏らすと、
「…無理してないか?」
と、陽華に問いかけた。
「無理…してないっ!」
「…手が震えてる。」
義勇と握りあった手が、先ほどから震えていた。
「違うの!この間は、勢いで行けたけど、今回は素だから、本当に緊張してるだけ!」
そう言って、義勇から目を反らした。
「陽華、こっちを見ろ。」
そう言われて、陽華は恐る恐る義勇の顔を見た。焦点がギリギリ合うかの距離で目が合い、陽華は心臓が早鐘のようになって行くを感じた。
「今日は止める。」
「大丈夫だから!止めないで!」
陽華は自分から離れようとする義勇の腕を、慌てて掴んだ。そして泣きそうな顔で義勇に打ち明けた。
「だって…だって、義勇が他の女の子としちゃうなんてやだもん!」