第9章 ※誘惑
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義勇と陽華は、とある山に任務で来ていた。こんな時に限って、二人での合同任務が続く。あの日以来の顔合わせに、陽華はまともに義勇の顔が見れなかった。
一方、義勇の方はと言うと、陽華の目にはいつも通り、そつなく任務をこなしているように見えた。
(気にしてるの、私だけ?)
そんなこと思っていたら、突然義勇が、じーっと陽華を見てくる。
「…ど、どうしたの?」
「口…赤い。」
「(あっ気付いてくれた!)うん…紅、さしたの。雛鶴さん…あっ、天元さんのお嫁さんがね。鬼殺隊でも、女を忘れちゃ駄目だって、紅をくれて…でも似合わない…よね?」
「別に…、悪くない。」
そう言って、背を向けて義勇は行ってしまった。一方、陽華は嬉しさに顔を綻ばせていた。
天元嫁達に拉致られたあの後、陽華は散々弄られた。
最終的には遊女のような感じにされて、さすがにやり過ぎた(天元達は大絶賛だったが…)となり、結果、紅さすだけの方が、反対に色っぽさを表現出来るんじゃないかとの結論に至った。
基本、義勇の「悪くない」は、本当に悪くないと思ってる。長い付き合いでそれだけはわかっていた。陽華は小さく拳を握りしめた。
もちろん、義勇を信じてないわけじゃない。でも、今日出会って共に過ごして、天元の言っていたこと、あながち間違いじゃないことに気付いてしまった。
義勇の細かい動き、息遣い、滴る汗(今日は暑かった。)、髪を掻きあげる動作、全てがあの情事の時と被ってみえる。
陽華は義勇の顔をまともに見れないのには、その理由もあった。
義勇が自分のことを欲しいと思うかは、わからないけど、淡白そうに見えた義勇にだって性欲はあった。そういう意味では、そういう事も…ありえるのかも?
すると突然、天元の言葉が真実味を帯びて、不安が込み上げてきた。
(やっぱり、紅だけじゃ足りなかったかな…。義勇の気を引くんなら、ちゃんと化粧してくるんだった。)
そんな事を思っていたら、義勇は遙か先を歩いていて、陽華は慌ててその後を追った。