第8章 親友
しかしその後、しのぶは陽華の顔に自分の顔を近づけると、小さな声で言った。
「で、どうでした?」
「何が?」
「……初体験。」
「ぶっ!」
陽華は顔中が赤くなるのを感じた。
「…なによ。しのぶだって気になってるじゃない。」
しのぶはコホンと一つ咳をすると、恥ずかしそうに言った。
「まぁ、私も年頃の乙女ですから。」
「んー。無我夢中だったからな。痛かったのは少し記憶にあるけど、それよりも義勇が、かっこよくて…、」
そこで一回言葉を切ると、陽華は恥ずかしそうに両手で顔を覆いながら続きを言った。
「なんかすごく幸せだった!」
聞いていたしのぶは冷めた目で陽華の様子を見ると、冷たく言った。
「そこまでは聞いてません。というか、冨岡さん。天然ドジっ子みたいな性格してて、手順を知ってたんですね。興味ないかと思ってました。」
「そうなのよ。さすがに経験済みって感じじゃなかったけど…って、何言わせるのよ!」
陽華がそう突っ込むと、しのぶは口許に手を当て、フフフと笑った。その後、優しい顔で陽華を見つめて言った。
「私は陽華に幸せになってほしいと、心から思ってます。でも本気になってしまったら、冨岡さんに何かあったとき、あなたが耐えられないんじゃないかと、心配してるんです。」
「わかってるよ、しのぶ。でも義勇も私も出会った時から、覚悟は出来てるから。」
そう言うと陽華は、「ありがとう。」と、優しくしのぶを抱きしめた。しのぶも抱きしめ返し、ぽんぽんと陽華の背中を優しく叩いた。