第1章 少年と妹
少し行くと義勇は、木の陰で陽華を待ってくれていた。追い付くと一緒に歩き出す。
「ねぇ、義勇。あの娘が鬼にされていたとなると…、」
「あぁ、あの家族を襲ったのは鬼舞辻無惨だ。」
義勇の顔が、険しくなる。
鬼舞辻無惨
それは鬼の始祖で、全ての鬼の親玉。陽華達鬼殺隊が、倒さなくてはならない、最大の敵の名だった。
「あの子達の家を見た。ひどい状態だった。」
あの家族は、食われていなかった。
あの少年が無事だったと言うことは、少年が家に戻った時、鬼舞辻はすでにあの場にいなかったと言うことになる。
つまり捕食の為じゃない。鬼舞辻は何故、あの家族にあんなひどいことをしたのか。
そして少年は、あの惨劇を目の当たりにした。家族を殺され、妹を鬼にされ、あの少年の絶望は、きっと計り知れないだろう。
遣り切れない悲しみと怒りが、どんどんと溢れてきて、陽華は拳を強く握りしめた。
「…陽華?」
義勇が陽華の変化に気付き、声を掛ける。その声に我に返った陽華が微笑み返すと、義勇は安心したように先を歩き出した。
それに付いて行きながら、陽華は来た道に、視線を戻した。
(あの家にあった、あの家族の誰とも違う匂い。あれが鬼舞辻の匂い…。)
陽華は、一生忘れないでおこうと誓った。自分達が倒すべき敵の匂いを。
・・・・
山を下り、立ち寄った街にあった小さな旅館。日も暮れ始めていた為、義勇と陽華は、そこで宿を取ることにした。
しかし部屋は一つしか空いてなく、仕方なく同じ部屋に泊まることになった。
障子から漏れる月の光で、微かに見える天井を見つめ、陽華は隣の布団に横たわる義勇に、声を掛けた。
「久しぶりだよね、布団を並べて寝るなんて。子供の頃以来かな?」
師である鱗滝の元で、錆兎と義勇、陽華の三人で、辛い修行に励んだ子供時代。
修行が終わると、同じ部屋で、一緒に布団を並べて寝た。
それを思い出して、陽華が懐かしさに顔を綻ばせていると、
「…そうだな。」
と、義勇が背を向けたまま、静かに答えた。陽華はその背中に視線を向けた。
思えば義勇とは、あの頃からずっと、共に過ごしてきた。