第1章 少年と妹
義勇は、長い髪の少女と対峙していた。少女の後ろには人が倒れている。陽華の目には、少女がその人間を庇っているように見えた。
次の瞬間、少女が義勇に向かって走り出す。義勇はその少女の攻撃を避け、その首元に一撃入れた。
食らった少女はその場に崩れ落ち、気を失った。
「ぎ…ゆう?」
陽華はゆっくりと義勇に近づくと、信じられない物を見た瞳で、倒れた少女を見下ろした。
「その娘、鬼…よね?今、人間を庇ったように見えたんだけど。」
「…そうだ。」
そういうと、義勇は一連の出来事を説明し始めた。
「…信じられない。」
陽華は首を振り、鬼の少女を見た。鬼には似つかわしくない、可愛い顔立ち。寝ていれば、誰も鬼だなんて思わないだろう。
「…だが、現実に起こった。」
そう言うと義勇は、少女を少年の横に寝かせてやり、近くに落ちていた羽織の雪を払って、少女に掛けてあげた。
「…陽華、竹筒を持っているか?」
「竹筒?うん。」
義勇に促され、いつも水を入れて持ち歩いてる竹筒を義勇に渡した。
義勇は中の水を捨て、両側に穴を開け、紐を通した。それを少女の口元に当て、後ろで縛る。
「口枷だ。こいつがその気になれば、こんなのは役に立たないだろう。でも戒めにはなる。」
「活かすってこと?……この子達、どうするの?」
陽華は、義勇の考えが読めずに、問いかけた。義勇は暫く沈黙した後、静かに答えた。
「…鱗滝さんに、任せようと思う。それに少年の方は、見込みがある。」
「師匠に?…だったら、義勇が見ればいいんじゃない?柱は継子を作れるんだし。」
その言葉に、義勇が陽華を一瞥した。
「俺は柱じゃない。それに育手にも、向いてない。」
陽華は言ったことを後悔した。義勇は自分を柱だと思っていない。何度も聞かされていたのに。
その時だった、少年が目を覚ました。
目覚めた少年に、義勇は師匠の詳細を教えるとその場を去った。
残された陽華は、不安そうな顔で妹抱える少年を、優しい表情で見つめた。
「私たちはこんなことしか出来ないけど、頑張ってね。」
その言葉に少年は陽華に向かい、深々と頭を下げた。陽華は、くるっと踵を返すと義勇を追うようにして、その場を後にした。