第45章 エピローグ
しかし、当初予定していた計画は、難航し、鬼の回復力を使った薬は、まだ完成に至ってはいなかった。それなのにまだ、陽華達が生きている言う事実。
この件に関しては、ずっと定期的に陽華達の身体を見てきた、蝶屋敷の見解では、痣の発現はあの一夜限りの短い間だけだったため、命の前借りが少なくて済んだのではないか。
鬼舞辻の血が体内に入ったことで、体内では、鬼化に近い状態が起こった。
又は一度死線を彷徨ったことにより、身体がリセットされた、など色々な見解が囁かれた。
だが、陽華だけは「私達の想いの強さが勝った」と自信満々に話し、周りの者を驚かせた。
とは言え、どれも確証が得られないとなると、いつか死が訪れる可能性は捨てきれない。
だが、いつ訪れるかわからない死に怯えるよりは、今この幸せな時を精一杯生きよう。そう二人は誓いあった。
「ねぇ、お母さん。」
陽華の手を掴んでいた勇兎が、くいくいっと手を引っ張った。
「ん?」
「……ご飯食べ終わったら、鬼狩り様のお話の続き…して?」
母親が毎日、寝る前に聞かせてくれる、鬼刈り達の物語。勇兎は今、そのお話に夢中だった。
陽華の手をぎゅっと握りながら、おねだりするような目で見つめてくる息子に、陽華は顔を綻ばせた。
「いいよ。うんうん、勇兎も鬼狩り達の虜になってきたね?…何処まで話したっけ?」
同じ趣味の仲間が出来たと、陽華が嬉しそうに微笑んだ。勇兎は少し考えると、思い出したように叫んだ。
「額に痣のある男の子が、水柱と一緒に強い鬼と戦うところっ!僕ね、水柱が好き!」
勇兎の言葉に義勇はムフフと微笑んだ。しかし、それを聞いた陽華は、あからさまに不満そうな顔を浮かべた。
「えー?…でも、水柱って昔のことばっかり引きずってる、根暗なやつよ?みんなから、嫌われてたし…。」
その言葉に義勇は心外そうな表情で陽華を見た。