第7章 ※制御不能
それからのことを、陽華はよく覚えていない。
義勇は鬼を追ったが、すんでのところで取り逃がした。小屋に帰るなり、亡くなった二人の亡骸を土に埋めてくれた。
「一度、街に戻るぞ。」
怯えつかれて、眠ってしまった男の子をおぶり、陽華の手を繋いで歩かせる。
陽華は放心状態のまま、義勇に引きずられるように、街までたどり着いた。
着いた頃にはもう、夜は開けていた。
義勇の背で眠っていた男の子は、起きたようだった。義勇が薬屋をやっている親戚のうちを訪ねる。
薬屋の前に着くと、男の子を下ろした。
陽華はいたたまれなくなり、言葉を発した。
「わたしっ……、」
言いかけた陽華を、義勇が止める。
義勇はその場にしゃがみこみ、放心状態の男の子の顔を真正面から見つめた。
「いいか、お前の親を殺したのは人食い鬼だ。しかし、このことを言っても、誰も信じてくれない。大人達は誰一人として、お前の仇を撃ってはくれないだろう。」
義勇は小さな紙切れを懐から、取り出した。
「もし、お前が自分の力で仇を撃ちたいと願うなら、俺達と同じく鬼狩りの道に入りたいなら、ここに手紙を出せ。俺はいつでも、育手を紹介する。」
「義勇!そんな小さい子にっ!」
義勇は紙切れを男の子の懐に差し込み、立ち上がった。
「怒りは生きる原動力になる。」
陽華はハッとした。身に覚えがないわけじゃない。
義勇は、薬屋の戸を叩き、出てきた者に事情を説明した。熊に襲われた。生きていたのはこの子だけだったと。そして、その者に男の子を預け、義勇達はその場を去った。