第7章 ※制御不能
しばらく走ると、小屋が見えてきた。扉が開いている。
辺りに漂う、血の臭い。
陽華は背中に冷たい物が伝わるのを感じ、急いで小屋の中を覗いた。
中は血の海だった。
最初に襲われたのは男の人だろう。血だらけで、仰向けで倒れていた。
その先には、何かに覆い被さり、蠢く黒い物体。
逃したあの鬼が、恐らく女性らしき人物に覆い被さり、食事をしていた。
陽華は怒りで、鬼を飛びかかった。だが、すばしっこい鬼はするりと抜け、扉とは別の壁を壊し、外へ逃げて行った。
残された陽華は、今しがた食われ絶命している女性に目を向けた。扉や窓から漏れる月明かりで、女性の顔がぼんやりと見える。
陽華が口元を抑えた。その女性に見覚えがあったから。昼間助けた男の子のお母さんだった。
その時だった。
「うぇ、ひっく、…お母さん。」
暗がりから泣き声が聞こえた。目を凝らしてみると、小さな物入れの中で、男の子が膝を抱えて震えていた。
陽華はすぐさま、男の子に拾い上げ抱きしめた。
(私のせいだ。私がしくじったから、こんなことに。わたしが……、わたしが…、)
「ごめん…、ごめんっ!」
男の子を抱きしめ、必死に謝る陽華の肩に義勇がそっと手を置く。泣き崩れた陽華は一晩中男の子を抱きしめ、謝っていた。