第44章 水魚之交
全員で手分けして、鬼殺隊員一人一人の墓に花を添えていく。
途方もない作業だったが、なんとか一般隊士の墓を参り終えた陽華達は、長い石畳の階段の下で、待ち合わせた。
「陽華さん、こっちは?」
そう言って、禰豆子が石畳の階段を見上げた。
「この上は、歴代の柱たちが眠る場所だよ。」
陽華が答えようとするよりも先に、炭治郎が答えた。
「炭治郎、知ってるの?」
「えぇ、煉獄さんの墓参りに、何回か来たことがあるので。」
そう言って、炭治郎は優しく笑った。
鬼殺隊の隊士は身寄りのない者が多い。もちろん、自分の家系の墓がある者、鬼殺隊を引退した後、家族を作って、自分の家の墓を建てる者などもいる。それ以外は、この共同墓地に入る者が大多数だった。
その中でも、特に階級の高い柱は、その功績を称え、別の場所に安置されている。
階段を登り、柱達の墓場に着くと、また一つ一つに花を供えていく。
一般違って、数はそんなに多くない。
花を供えては、手を合わせる。その中でも、一際目を引く、大きな墓の前で、炭治郎は止まった。
「お兄ちゃん、この墓…もしかして…、」
禰豆子に問いかけられ、炭治郎が静かに頷いた。その墓石の中央に書かれた名前は「煉獄家」だった。
「おい、他のと違って、でっけーな!誰の墓だ?」
文字の読めない伊之助が、炭治郎に尋ねると、ちょうど隣の墓を参り終わった陽華が、伊之助の肩に手を置いた。
「それはね、煉獄家の墓。煉獄家は歴代、炎柱を排出し続けている、古い家系だから、入る人数も多いでしょ?だから、特別に墓が作られてるの。」
「じゃ、ここにギョロギョロ目ん玉がいんのか?」
「そう。もちろん、杏寿郎もここにいるよ。」
そう言って陽華が、墓に向かって微笑む。炭治郎は静かに墓に近づくと、花を置いて、墓に手を合わせた。それに合わせて、伊之助、善逸、禰豆子も手を合わせ始めた。
この四人にとって煉獄杏寿郎は、鬼殺隊の在り方、その指針を示してくれた、師とも言える存在だ。報告することも、多いのだろう。
しばらくの間、合掌する四人の横から、陽華も花を供えると静かに合掌した。