第41章 繋ぐ想い 前編
最後の方は、重くならないように茶目っ気たっぷりに微笑むと、鱗滝は呆れたようにため息をついた。
「……たくっ、相変わらず…お前は。」
師匠の心配なんか余所に、いつも通り明るく振る舞う愛弟子の姿に、胸が打たれる。
そんな師匠の気持ちが伝わってきたからか、陽華は義勇と、自分達で決めた約束事を鱗滝に伝えた。
「義勇と決めたんです。その時が来るまで、暗く考えずに、笑顔で楽しく過ごそうって。だから、師匠には本当に申し訳ないんですけど、もう暫く、お付き合い頂けますか?…最後の親孝行、させてください。」
「うむ。弟子の事は、最後まで責任を持つ。それが師の務めだからな。」
そう言うと鱗滝は「仕方ないな。」と優しく呟いた。
「ありがとうございます。でも私達、二人揃って師匠の所に帰れるなんて、本当に嬉しいんですよ?」
陽華がそう言って、穏やかに微笑む。
「あの小屋は私達の家ですから。いつ帰っても、どんな時に行っても、暖かく迎えてくれる師匠がいたから、私達は頑張れたんです。」
その言葉に鱗滝の目頭が熱くなった。お面を取ると懐から出した手ぬぐいで、目の辺りをそっと拭い、そして感慨深げに、陽華を見つめる。
「あの小さかったお前らが、立派に成長して、柱となり、まさか鬼殺隊の悲願を成就するまでになるとはな。」
「自慢の弟子ですか?」
陽華が得意げな顔を浮かべ、師匠の顔を覗き込んだ。鱗滝はその優しい顔を、嬉しそうに綻ばせながら答えた。
「あぁ、誇りに思う。」
「じゃ、あの頃のように褒めてください。」
そう言って陽華は、鱗滝に向かって頭を差し出した。鱗滝はその頭に手を乗せると、優しく撫でた。
「よく頑張った。陽華、お前は凄い子だ。…そして、わしの自慢の娘だ。」
「ふふ。私帰ったら、師匠のことお父さんて呼ぼうかな?」
陽華が照れながら言うと、鱗滝は手を胸の前で組み、少し考えた。
「父さんか。でも…年を考えると、祖父でもおかしくはないな。」
「じゃあ……じぃじ?」
そう言って、少し笑いを堪えながら上目遣いで見つめると、鱗滝は眉を潜めた。
「それはそれで…嫌…だな。」
しみじみと言った鱗滝が面白くて、陽華は声に出して笑った。