第41章 繋ぐ想い 前編
それからさらに時が経ち、あの戦いから、二ヶ月余りが経過した。
その間に、まだ目覚めていなかった炭治郎も無事に意識を取り戻し、陽華も蝶屋敷内の敷地なら、一人で出歩いてもいいと、許可が出るくらいまで回復していた。
「はぁ…、気持ちいい♪」
気分転換に出た庭で、外の空気を肺一杯まで吸い込み、大きく吐き出すと、陽華は気持ちよさそうに空を仰いだ。
まだ冷たい風が吹いてはいるが、心地よい春の日差しが降り注いでいる。程よく冷たい外の澄んだ空気は、庭先に咲いた梅の花の香りも相まって、最高の気分転換になった。
陽華が、庭に咲いた花々を愛でていると、道場の方から師・鱗滝左近次が歩いてきた。
「あっ、師匠!」
陽華が手を振ると、鱗滝は側までやってきた。
決戦時、禰豆子の世話係を請け負っていた鱗滝だが、決戦後は弟子たちが揃いも揃って昏睡状態となってしまった為、鬼殺隊本部に留まって、様子を看てくれていた。
今も義勇の復帰訓練に、立ち会ってくれている。
「師匠、義勇はどうですか?」
「うむ。感覚を取り戻し、歩行の方はもう問題なさそうだ。左手での訓練も、元から両手で刀を握れるよう、鍛錬していたようだから、もう少し訓練すれば、日常生活は大丈夫だろう。」
「良かった!」
陽華が嬉しそうに微笑むと、鱗滝も「そうだな。」と安心したように呟いた。
「もう心配は無さそうだから、わしは一度、狭霧山に帰ろうと思う。長い間、家を開けてるから、そろそろ心配でな。」
「そうですね。それに私達も、傷が癒えたら帰るんで、掃除しといてくださいね?」
陽華が笑顔で言うと、鱗滝は困ったように言った。
「わしは構わんが、いいのか?…二人の方が、いいんじゃないのか?」
鱗滝が気遣いを見せると、陽華は首を軽く振り、師匠に向かって笑顔で答えた。
「いいえ。お世話になった師匠に、少しでも恩返ししたいって、義勇とずっと前から、話してたんです。」
しかしすぐにその笑顔が、苦笑いに変わると、陽華は気まずそうに言葉を続けた。
「でも、あれですけどね。師匠が先か、私達が先か?…微妙なところですけど…。」