第40章 柱
陽華に視線を戻すと、陽華は何の事だがわからない…といった感じで、きょとんとした顔で実弥を見ていた。
(……これだから、余計にタチが悪ィーんだけどなァ。)
実弥はため息を付くと、陽華に握られた腕を一旦外し、陽華の手の上に自分の手を重ねた。
「それにな、お前と冨岡の絆には、どうにも太刀打ちが出来ねェ。…あんな野郎に負けたってのは…悔しいが、お前が幸せなら、それでいい。」
「実弥、ありがとう。」
陽華は笑顔で実弥に礼を言ったあと、義勇の名前が出てきて、思い出したのか、そのまま言葉を続けた。
「…あっ、そうだ!義勇も、感謝してたよ。なんか、諦めかけた時に檄飛ばしてくれたんでしょ?」
「ん?…あれかァ。アイツ、大事な決戦中に情けねェ顔しやがって…。感謝してんなら、自分で言いに来いって、言っとけ。」
実弥が悪態を付くと、陽華は首を傾げた。
「私も、一緒に行こうって、誘ったんだけど。義勇が、一人のほうがいいって。」
陽華のその言葉に、実弥は舌打ちした。
「チッ…。冨岡のくせに、気づいてやがったのかァ。アイツに気ィ使われたっつーのが、さらに気にいらねェな。」
まさか、義勇が実弥の気持ちに気付いてると思わなかった。同じ者を好き同士、なんか感じる物でもあるのか?
そんなことを考えていたら、開け放たれた部屋の入口の方で、何かが動く気配がして、実弥の視線は、入口へと注がれた。
その正体に気付くと、実弥は小さく鼻を鳴らした。
「おい!お前は、んなトコで何してやがんだァ、冨岡ァ?」
「え、義勇!?」
実弥の言葉に、陽華は驚いて振り向いた。開け放たれた入り口に、蝶屋敷専用の病院服がチラつき、見慣れた黒髪が見えた。
義勇はもう逃げられないと、観念したように振り向くと、気まずそうに病室に入ってきた。