第40章 柱
「そうだなァ。…俺もしぶとく、生き残っちまった。なんか、特別頑丈に出来てるらしいぜ、俺の身体はよォ。」
そう言って笑う実弥に、陽華も釣られて笑う。
しかし、その実弥の顔に一瞬だけ、暗い影が差したのを、陽華は見逃さなかった。
きっと実弥の中に、無くした大切な人の姿が過ったのをだろうと想像できた。
「…聞いたよ、玄弥のこと。残念だったね。」
陽華の言葉に、実弥の身体がピクリと震えた。
実弥の大切な人、弟の玄弥は、上弦の壱との戦いで命を落としている。そしてそれは、実弥の目の前で起きたと、鴉から報告を受けていた。
不器用な愛し方だったけど、本当に弟の事を想っていたのを知っていただけに、報告を受けた時、陽華は胸が痛くなったのを思い出した。
実弥は陽華の言葉に、小さく息を吐き出すと、天井を仰いだ。
「…アイツさぁ、死ぬ間際に俺のこと、この世で一番優しい兄ちゃんだって、言ったんだ。」
「…うん。」
「でもよ、優しい兄ちゃんって、弟を守るもんじゃねェか?……結局俺は、アイツを守れなかったっていうのによ。」
そういうと実弥は、陽華から顔を逸らすように横を向いた。
「……実弥、」
「なんで、俺なんかが生き残っちまったんだろうなぁ。……俺は…大切なモン、何一つも…守れねェって…いうのに…よォ…、」
実弥のが目頭を抑えた。声は押し殺しているが、小さく身体が震えている。
気が付くと陽華は、実弥の腕を優しく握りしめていた。
「……実弥。そんなことないよ、私がここにいる。」
その言葉に、実弥が静かに振り向いた。少し涙に潤んだ瞳で陽華を見た。
「実弥が、私を守ってくれたんでしょ?」
そう言うと、陽華は優しく微笑んだ。実弥はその言葉の意味が解らず、怪訝な顔を浮かべた。