第39章 目覚め
(…俺の手を、握って…?)
義勇の頭に今度ははっきりと、陽華の姿が浮かび上がる。
「…あぁ、そうだ。……姉さん、俺…大切な人が…出来たんだ。」
その言葉に、蔦子が嬉しそうに微笑んだ。
「そう、思い出したのね。じゃあもう、泣き虫の義勇じゃないのね?」
義勇がコクリと頷くと、蔦子は誇らしげに義勇の顔を見つめた。
「義勇、大切な人の所へ、帰りなさい。」
その姿がフワッと揺らぐ。
「待ってくれ、姉さんっ!…俺、ずっと言いたかったことが…、」
そう言うと義勇は、溢れてきそうな涙をグッと堪え、ぼんやりと薄らいでいく蔦子に、子供の頃と変わらない、屈託ない笑顔を向けた。
「蔦子姉さん、ずっと俺のこと、守ってくれて…ありがとう。」
その言葉に、蔦子は嬉しそうに優しく微笑んだ。そして、義勇は眩しい光に包まれた。
・・・・
義勇が目を開けると、何処かでみたことある天井が目に入った。
(…ここは、どこだ?)
身体が熱い。熱があるのか?朦朧とする頭で考えると、すぐに蝶屋敷であることを思い出した。
ふと左手に暖かさを感じ、義勇は視線を向けた。そこには義勇の手を握り、祈るように項垂れる愛しい者の姿があった。
「…陽華?」
その言葉に反応して、陽華は慌てて顔を上げた。
「義勇…っ!」
陽華は義勇と目が合うと、驚いたように目を見開いた。
しかし、その顔がゆっくりと崩れていく。陽華は嬉しそうに顔をくしゃくしゃに綻ばせると、その目からボロボロと涙を溢れさせた。
「んぅぅ…、ぎゆ…う…、うっ、」
耐えきれず、椅子に座り込んで泣き出す陽華を見て、義勇はちょっとバツが悪そうに微笑んだ。
「俺はいつも、お前を泣かせてばかりだな。」
「うっ…、これは、悲しくて泣いてるんじゃなくて、…っ…、嬉しくて…んっ…泣いてるんだから、いいの!!」
「そうか。」
泣きながらも、笑顔を浮かべる陽華に、義勇も釣られて、笑顔を向けた。
それから義勇は、駆けつけた医者の処置で、もう一度眠りについたが、次の朝にはきちんと目を覚まし、陽華を安心させた。
それから、数日が経った。