第39章 目覚め
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闇の中で、幼い義勇は膝を抱えて、泣いていた。
「うっ…っ、姉さん、っ…、どこに…行ったの…っ?」
姉と買い物に来たはずなのに、はぐれてしまった。気づいたら、周りは暗闇で、義勇は心細さに泣き出してしまったのだ。
「義勇?」
聞き慣れた優しい声が聞こえて、義勇は顔を上げた。少し先に大好きな姉・蔦子の姿が見え、義勇は顔をパッと輝かせた。
「姉さん!!」
義勇が立ち上がり、蔦子に近づく。しかし、愛しい姉はスッと遠くなり、義勇は触れることが出来なかった。
「蔦子姉さん、何処へ行くの?僕も一緒に行くよ。」
「だめよ、義勇。もう一緒には、行けないの。」
蔦子はそう言って、寂しそうに微笑んだ。義勇は姉の言ってることが解らず、その手を取ろうと手を伸ばすが、蔦子はそれを拒否するように、そっと手を引いた。
ずっと、自分の手を引いて歩いてくれた姉に拒否され、義勇は困惑の表情を浮かべた。
「ね、姉さん?」
そんな義勇に姉、蔦子は優しく微笑んだ。
「…もう貴方には、その手を握って一緒に歩いてくれる、大切な人がいるでしょう?」
「大切な…人?そんなの姉さん以外にいないよ!僕は……、俺はっ……、」
義勇はハッとして、目を見開いた。
「俺は……、大切な…人…?」
ー 義勇っ!!
突然、義勇の頭に、自分を呼ぶ懐かしい声が響いた。その声を聞くだけで、義勇の心が安らいでいく。
「ほら、義勇。貴方を呼んでる。」
その言葉に義勇は、自分の左手が暖かな温もりに包まれているのを感じ、掌を見つめた。
その手は先程、蔦子に向かって伸びた幼い手とは違い、節くれだってゴツゴツと硬い、見慣れた自分の手に変わっていた。