第38章 最終決戦 夜明け
「カナヲ、何をするつもりなの?」
陽華が問いかけると、カナヲは胸のポケット入った、小さな長細い木の箱を見せてきた。
「最後に師範……姉さんに会った時に、渡された物です。」
「……まさか、人間返りの薬?」
陽華の呟きに、カナヲが頷いた。
しのぶが、こんな物まで用意していたとは、知らなかった。
陽華は炭治郎に目線をやった。背中に生えた触手が縦横無尽に暴れまわり、みんな防戦一方を強いられている。
「カナヲ、今の炭治郎は危ないわ。私がやる。」
陽華が手を出すと、カナヲが静かに首を降った。
「陽華さん達はもう、動けないでしょ?私がやる。」
そう言って、カナヲが微笑む。その顔は今までのカナヲとは比べ物にならないくらい穏やかで人間的だった。
「私の片目を残して置いてくれたのは、この為だったんです。」
そう言うと、カナヲは薬の入った木の箱を、キュッと握りしめた。
(そうでしょ、姉さん。)
「駄目よ、カナヲ!!終丿型を使ったら、今度こそ両目とも、失明するわっ!」
陽華も制止も聞かず、カナヲは走り出した。
カナヲは花の呼吸 終ノ型・彼岸朱眼を放ち、炭治郎に近づく。
縦横無尽に動く触手をかわしながら、薬の入った容器を、炭治郎の背中に打ち込んだ。
「炭治郎、駄目だよ。…禰豆子ちゃん、泣かしたら…駄目だよ。」
避けきれなかった攻撃がカナヲの首を捉え、カナヲはその場に転がった。
ドクンっ!
次の瞬間、炭治郎の身体が大きく震えた。
一瞬の攻防に、みんなが息を飲む中、炭治郎はゆっくりとその場に倒れ込み、意識を失った。