第38章 最終決戦 夜明け
「……しのぶ?」
「陽華、覚えてる?姉さんが死んだ日のこと。」
あの瞬間、しのぶを取り囲む世界全てが、暗闇になった。肉親を失った隊員なんて、たくさんいる。でも、姉を…胡蝶カナエを失った悲しみや喪失感は、自分にしか解らない。
そう思っていたのに…
「貴方は姉さんの遺体に縋り付いて、心から泣いてくれた。あの場に間に合わなかった事を悔やんで、一緒にあの鬼を倒そうって、約束してくれた。」
「当たり前じゃない。カナエは親友だったのよ。…それに私がもっと、しっかりしていれば…、」
申し訳無さそうに瞳を陰らせながら、陽華がカナエに視線を贈ると、その心情を察してくれたのか、カナエは優しく微笑み返してくれた。
「私の気持ちを、誰よりも解ってくれた貴方がいて……私は救われたの。」
しのぶはいつしか陽華に、姉・カナエに向ける感情と、同じような感情を抱いていた。
そして誓った。大事な人をもう誰一人として、死なせたくない。
「だから私は、少しでも貴方やカナヲが生きられる方法を選んだ。……だから、お願いよ。」
懇願するような瞳で、しのぶが陽華を見つめた。
「帰りなさい、陽華。」
パァンっ!
小気味のいい音を立てて、陽華がしのぶの頬を叩いた。
いきなりの出来事に、しのぶは叩かれた頬を抑えながら、少し放心ぎみに陽華の顔を見た。
陽華は、怒りと悲しみで顔を高揚させながら、しのぶを睨みつけていた。
「どうして…みんな、そんなに勝手なのよ。私だって…私だって…、しのぶには生きていてほしかったよ!」
「陽華…、」
「ずっと後悔してた。しのぶを止められなかったこと。私がもっと、強ければって。こんな方法しか、選ばせてあげられなった…自分を…、ずっと責めて…うっ…、」
感情が高まり、涙が溢れ出して止まらない。
そのまま顔をくしゃくしゃして、泣き出した陽華を見て、耐えきれず、しのぶも泣き出した。
「ごめん…ごめんなさい、陽華。」
そのまましのぶは、陽華に抱きついて、泣きじゃくった。そんな二人を、カナエは優しく包むように抱きしめると、頭を撫でた。
「もう充分過ぎるほど、伝わったわ。二人の気持ち。少し、嫉妬しちゃうくらいよ。」