第6章 音柱
「天元さん、ありがとう。」
陽華は天元の気遣いが嬉しいあまり、涙目で天元にお礼を言った。天元は泣いた子をあやすように、陽華の頭を優しく撫でた。
「泣くな泣くな、よしよし。あ、冨岡…。」
「え?」
来た道の向こうに義勇の姿を発見し、天元が呟いた。陽華が慌てて、天元の視線の先を見ると、確かに義勇の姿あった。
天元は近づいてきた義勇の顔を見て、ニヤッと意地悪そうに笑うと、陽華の頭に置いた手を肩に回し、ぎゅっと自分の方に抱き寄せた。
「なぁ、冨岡。おまえがいらないって言うなら、陽華は俺が貰っていいか?」
「ちょ、天元さん!」
「安心しろ、祝言は派手に挙げてやる。もちろん、おまえも招待してやるよ。柱なんだから、ご祝儀は弾んでくれんだろ?」
天元はそう言うと、陽華を自分の胸の方に引き寄せ、真正面からギュッと強く抱き締めた。
陽華は天元の胸に顔を埋めるような形になり、息苦しさに手足をバタつかせた。
「宇髄、陽華が嫌がってる。その手を離せ。」
義勇が静かな、抑揚のない声を発した。その顔を見て、天元は驚いたようにヒューッと口を鳴らした。
「ふぅん。そういう顔も出来るんじゃねぇか。…冗談だよ。」
天元は義勇に見せつけるように、陽華の耳元に口を寄せると、小さく呟いた。
「中々、可愛いところあるじゃねぇか?お前の旦那。…俺、先に行ってるわ。ちゃんと話し合えよ。」
天元は、今だに強く視線を送る義勇を一瞥すると、さっさとその場を去っていった。