第1章 少年と妹
義勇と別れた陽華が、雪山を進んでいくと、遠くに一軒の小屋が見えた。
血の匂いがどんどん濃くなっていくと、匂いの変化に気づく。
この血はもう、新しくない。
間に合わなかったかもしれない。陽華は心臓が、バクバクと波打つのを感じた。
やっとたどり着いた小屋の前。玄関の前の雪は、血で赤く染まっていた。
そこから伸びるように、森の方向に向かった僅かな足跡と、鬼とも取れない匂い。
陽華の鼻ではそれが限界だった。
だが今は、小屋の中が先だ。陽華は急いで扉を開けた。そしてその先にあったのは、目を覆いたくなるような惨状だった。
「…ひどい。」
口元を手で覆い、辺りを見回した。1、2…5、死んでいるのは5人。母親らしき女性と、4人の幼い子供達。全員絶命していて、家の中は血の海だった。
母親は子供を、兄は弟を。庇うように倒れていて、陽華は胸が苦しくなるのを感じた。
しばらく回りを見渡していたが、ふと違和感を感じる。
「……誰も喰われて…ない?」
間違いなく鬼の爪で引き裂かれているが、誰も喰われた形跡がない。
邪魔が入ったのか?食わずに逃げた?そうすると、外の足跡が気になる。あれは義勇が向かった方向だった。
陽華は遺体に向かって手を合わせた。そして外に出ると、足跡の方向に向かって走り出した。
雪が降り続く中、消えそうな足跡と匂いを頼りに辿っていく。暫く進むと匂いが強くなり、人影が見えた。凝らして見ると、義勇の羽織模様が見えた。
「義勇ー!!」
陽華が義勇の名前を叫んだ。
「来るなっ!」
義勇に一喝され、陽華が少し手前で歩みを止める。