第37章 最終決戦 鬼の始祖 後編
陽華は、深く息を吐き出すと、静かに無惨に問いかけた。
「最後に一つだけ、聞いてもいいかしら?……貴方は何の為に、生まれてきたの?」
陽華の質問の意味が解らず、無惨は怪訝な顔を浮かべた。
「お前達人間も、鬼も同じだ。生きるために生まれてきた。」
無惨が静かに答えた。その答えに反応して、
陽華はさらに質問を繰り返した。
「生きるために、人の命を…幸せを…尊厳を、踏みにじるのはいいの?」
「それは人間の本能だ。お前達人間が今までしてきたことだろう?自分達がのし上がる為に、人を蹴落としてきたではないか?」
無惨は無表情のまま、陽華を見下ろすと言葉を続けた。
「歴史が示している。私はこの千年、汚いこの世の中を見てきた。人間が人間を蹴落とし、天下を取る。命を軽んじて来た者だけが頂点に立ち、なぜ我々だけが責められる?」
「そうね。確かに…貴方の言うとおりだわ。人間の歴史は、争いの歴史。……鬼よりも汚い人間なんて、それこそたくさん存在する。」
人間だって、自分の利益の為に人を殺す。動物だって、殺して食べる。快楽で殺したりする者もいる。
「でも、だからといって…、」
でもその影で、いつの時代も、どの世界でも、踏みつけにしてきた者の下には、必ず、踏みつけられた者達がいる。
陽華は無惨を、キッと睨みつけた。
「…その…踏みにじられた人達の気持ちは、悲しみは…消えたわけじゃない!」
泣き叫ぶように訴える陽華を、無惨は冷たい目で見降ろすと、静かに言葉を続けた。
「……それで、終わりか?時間稼ぎのお喋りは。」