第37章 最終決戦 鬼の始祖 後編
「……囮になる?」
陽華の一言に、実弥は怪訝な表情を浮かべた。
「うん。たぶん無惨は今…、私にめちゃくちゃ切れてると思うのよ。きっと…実弥が私を離したら、無惨の攻撃は私に集中する。」
「だがそれだと、お前が危険じゃねェーか!」
実弥が心配するように問いかけると、陽華はそれを払拭するように微笑んだ。
「そこは大丈夫。もう対策はしてあるから。……肝心なのはその時なの。私が合図したら、全員で一斉に斬りつけて!」
陽華の作戦は思惑通りになった。
無惨は、行冥の赫く変化した鉄球で頭を潰され、再生には時間を有する。
行冥にはまだ作戦を伝えていなかったが、陽華が暗躍しているのに気づき、己の勘だけで、思惑通りに動いてくれた。
小芭内への説明は、近くにいた義勇がしてくれていると踏んだ。そして、この絶好の機会を、柱たちが逃す訳がない。
実弥の刀が、後ろから無惨の左側の心の臓を貫くと、下では義勇が、横薙ぎに脳ごと太腿を切り裂いた。柱達の刀が、次々と急所を捉える。
もう勝利は確定した。そう確信した時、怒りに狂った無惨の身体が大きく震えた。
パギャッ!!
突如、無惨から発生した、地面さえも抉れるような衝撃波が、周りにいた者達の身体を弾き飛ばした。
その衝撃により、義勇達の身体は近場の建物や地面に、めり込むように叩きつけられた。
その光景に、陽華は愕然とした。
(失敗した……。)
詰めを誤った。手負いの獣が追い詰められた時、どんな行動に出るのか?知らなかった訳じゃない。過信し過ぎて、その注意を怠った。もう少しのところだったのに、決めきれなかった。
砂煙が落ち着くと、陽華の視線の先には静かに冷めた表情でこちらを見つめる、無惨が立ち尽くしていた。