第37章 最終決戦 鬼の始祖 後編
陽華は戦場で暴れまわる伊之助達を見ながら、目の前で座り込む小芭内に、声をかけた。
「小芭内、もう大丈夫?」
落ち着いた小芭内は、小さく頷くと立ち上がり、陽華の顔を見た。
「陽華、なぜ戻ってきた。冨岡が悲しむぞ。」
小芭内の言葉に、陽華は呆れたように小さく息を付きながら立ち上がり、膝の砂埃を払った。
「…本当にアンタ達は、自分の都合だけで。」
「愛しい者に、生きていて欲しいと願うのは、当然のことだろう?」
「そこが勝手だって言うのよ。残される方の気持ち、考えてみなさいよ?」
多分、考えたのだろう。小芭内が目線を少し落とした。
「…すまなかった。」
「もういいよ。それより、ソレ。…期待していいんだよね?」
陽華が、小芭内の赫く輝く刀を見た。
「鴉の報告だけだ。それに相手は鬼の親玉だぞ。どれくらいの効果なのかは、正直わからん。」
「それで充分♪」
後は実戦あるのみ。陽華は戦局に向き直ると、比較的近場にいる実弥に声を掛けた。
「攻撃班と援護班に分けるわ。義勇と二人で、小芭内と行冥さんの援護をして!」
実弥の風の呼吸、破壊力もさることながら、広範囲に渡る風の幻影は、撹乱や揺動にも向いている。義勇の凪と合わせれば、最強の後押しになる。
「アァ!?」
実弥は陽華の隣りにいる小芭内の姿を見て、作戦の真意には気付いてくれたようだった。
しかし、義勇と二人って言うことが気に入らなかったのか、一瞬不満そうな顔を浮かべた。でもすぐに無惨に目線を戻すと、作戦に従う様に動き出した。
「では、俺も行く。」
小芭内が動き出した。その後ろ姿に陽華は声をかけた。
「小芭内!貴方が何に縛られてるか、知らないけど、もう時は大正よ?そんな江戸時代の武士みたいな考え、古いんだからね!?…全て終わったら気持ち、伝えなさいよ?」
「うるさい。」
小芭内は陽華に悪態をつくと、無惨に向かって走り出した。
「よしっと!」
その後ろ姿を見送りながら、陽華は小さく呟くと、隊服の胸ポケから愈史郎の紙眼を取り出し、おでこに貼った。